リフォーム事例

広瀬の家

- リノベーション 東金市広瀬 -

 

施主は幼少期をそこで過ごし、一旦は第三者が所有し住んでいた建物を、強い愛着から20年の時を経て買い戻した。
思い出を残しつつも遊び心あふれる建物に生まれ変わらせたいという願いを叶える。

 

 

 

施主の建物に対する思い

その家は、まだ若かった私の両親が建てたもの。バブルの絶頂期にあり、買えたのは16坪の三角の土地。当時は公営団地住まいだった。家族で何度も足を運び、出来上がってくる様子を満面の笑みで見上げる両親の顔は、子どもながらに嬉しいことだと理解できた。建物は土地に合わせた三角形。木造三階建ての物理的・法規的・予算的にも、ともにめいっぱいで建てられたもので、『あの三角の家に住んでいる』と言えば、近所の料理屋さんでツケが利くほど目立つものだった。家族5人と歴代の犬や猫たちとの生活は、今思えば不思議なことだらけ。突然母親が実家からチャウチャウ犬2頭を連れて帰るなりベランダに括りつけ飼い始めたり、近所の猫が家に上がり込んでえさを食べていたり、布団は常に敷きっぱなしで月に1度くらいしか畳まないといった、そんな生活だった。小さい・汚いながらも、家族との思い出がたくさん詰まっている場所。それが広瀬の家だった。

小学校5年の時、大きな家へ引っ越すことになる。広瀬の家は、貸家となり、借りてくれた方が買うことになった。当時はそのことについて何も感じることなく、「そんなものかな…」といった程度にしか考えていなかった。時が過ぎ、不動産売買の仕事が板についてきたころ、広瀬の家の所有者から建物を解体して土地を売りたいと相談を受ける。広瀬の家はトリミングやペットホテルのお店として増築され使われていたが、外壁に水が回り、雨漏りやシロアリなどの甚大な被害に加え、極めつけは地盤沈下による6センチ以上の傾きがあって外から眺めても傾いていることが分かるくらいの状態だった。解体工事の見積もりの前提で現地へ行った私は、広瀬の家の前に立った時にふと、それまで頭の片隅にもなかった記憶がこの家の場面ごとにあふれてくることに気づく。目の前のコレは私にとって記憶であり記録、思い出なのだと。解体の見積もりではなく、現状のまま売ってほしいという話をその日のうちにまとめた。

所有は出来たものの、改修工事は困難を極めた。構造材が腐り、外壁は剥がれ落ち、担当する職人さんは口々に「こんなもの直してどうするんだ」と言っていた。私には思い出以外の理由がなく、設計を担当した石井さんと打ち合わせを重ねて方向性を導くことができた。出来る限りの改修にはなるが、既存のものを極力活かす。思い出の再構築を踏まえながらも遊び心あふれる建物に生まれ変わらせたいという願いが叶った。

施主 野老憲一

 

 

設計コンセプト

この家は築30年で、建物は傾き構造は傷んでいて、本来は解体するべき建物だった。施主は幼少期をそこで過ごし、一旦は第三者が所有し住んでいた建物を、強い愛着から20年の時を経て買い戻した。不動産業を営む施主が、思い出の詰まった建物を残したいという思い、また木造の建物はどんなに傷んでいても直せることを証明し、短命である日本の住宅問題に良い影響を与えたいと考えていたので、挑戦ではあるが改修することにした。

改修にあたり、外観はそのままの形(増築された部分を解体し元の形に戻した)を残しながら、建物の傾きを直し、基礎と構造を補強した。また、3階建の建物(3階にはロフトをつくりそこを加えれば5階建て)を吹抜けでつなぎ、どこにいても互いの気配が感じられる開放的な空間につくりかえる。吹き抜部分はアスレチックネットを張り、吹抜けではあるが居場所になることを目指す。3階には3か所の天窓があり、煙突のように風を流す役割と、1、2階に光を落とす役割をもち、展望台のように窓から景色を楽しむこともできる。

この建物に面する通りは、通勤通学で多くの人が行き交うため、仕事や学校から帰ってくる際に、真正面に見えるこの建物を目指してきてほしいとの願いから、通りに向けて大きな開口部を設け、そこから漏れる光で、地域の灯台もしくは地域の照明のような役割を建物に持たせる。

そして、地域のランドマークになるように外壁は目立つ色を選択する。その色はこの地域の屋根や外壁でよく使われている色なので、街並みに馴染む色だと思う。敷地が16坪と狭いなかで、空いた外の庭を、通りがかりの人が何気なく利用できる居場所になることを目指す。そこに樹木を植えることで街路樹の役割、通りに面して配置した照明は街路灯の役割をもつ。そして近くのコンビニ(2軒隣のローソン)で買ったコーヒーを飲む場所として使えばカフェテラスになり、学生のカップルがひと時を過ごす場所なら公園になる。そのことで地域にちょっと活気がでたらと期待する。また、そこに賽銭箱(場所利用代をそれぞれの気持ちで払う箱)を置いておけば、新しい不動産業の形が出来るのではと可能性を感じる。

そして内部は、30年天井でふさがれていた小屋組みをあらわしにして、新しい中に改修ならではの時代を感じさせる古さを融合させ、懐かしくあたたかい居心地のよさを目指す。新築とは違う改修ならではの良さがでた家にしたい。

設計施工担当 石井俊晴

 

 

ビフォーアフター

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After

 

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VR

 

 

 

 

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